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みんなの「短編小説」ブログ


太鼓

2011/02/28 22:00
 誰かが死んだ。哀悼の意を込め、みんなで太鼓を叩くことになったらしい。ずらりと並んだ太鼓のうち、いちばん端のものの前に私は立っている。どんなリズムを打てばいいのかわからない。同じように黒い服を着た男女の横顔を盗み見たところ、誰もが自信にあふれていて、どうやら私だけが知らないみたいだ。とまどっているうちに演奏がはじまる。他の者たちは一糸乱れず太鼓を打っていくのだが、見様見真似でやっている私はどうしても遅れてしまう。ずれてしまう。周囲からの冷たい視線を感じ、私は居たたまれない気持ちになる。しかし、叩いているうちに慣れてきたのか、開き直ってしまったのか、私の手は勝手に動きだす。調子よく太鼓を叩いていく。次第に激しくなっていき、それにつれて他の者たちの音が聞こえなくなり、周囲の視線が気にならなくなる。私は一心不乱に太鼓を叩きつづける。気がつくと、他の者はただ突っ立っているだけだ。私だけが叩いている。ああ、と心の中でつぶやく。死んだのは、きっと、私ととても親しかった者だろう。太鼓の音が響いている。私は初めて悲しみをおぼえる。

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